研究科委員長メッセージ

種蒔く人に社会学研究科委員長 坂上貴之

ヒトは太古の昔より考え続けてきました。考えることによって知が集積され、この集積された知が私たちの文化の根幹を形成してきました。大学院に進まれる皆さんは、ヒトが不断の歩みを続けて形成してきた文化の、新しい重要な担い手となる方々です。これまでの文化の伝統を引き継ぐとともに、未来の文化の革新者となっていく、そうした皆さんの文化の種を蒔く人としての基礎的な力を育てていくのが、大学院での教育の使命です。

社会学研究科は1951(昭和26)年に文学部、経済学部、法学部の社会学研究に携わっていた教授たちによって創設されました。このことは、所属する学部の壁を越えた、学際的研究と教育を目的とする研究科として出発したことを意味しております。その後、1953年には心理学、1961年には教育学が加わり、現在の3つの専攻の基本的な骨格ができました。2016年4月現在、環境情報学部、教職課程センターの専任教員を含む31名の教員によって研究と教育が展開されています。

3つの専攻は、文化に関わる異なる側面を、異なる学問の伝統的で専門的な方法に基づいて探求してきました。その一方で、同じ専攻の共通の問題であっても、教員たちは様々なアプローチでそれらに取り組んできました。この社会学研究科では、すべての専攻において、人文科学、社会科学、自然科学のすべてのアプローチを見出すことができます。さらに一人の教員が複数のアプローチを用い、それらを統合する形で問題を解決しようとさえしています。伝統的でありながら多様なアプローチをとっていることは、社会学研究科の成り立ちを考えると、良く理解できるのではないかと思います。

それにもかかわらず3つの専攻に共通する点も見出すことができます。それはいずれも人間の内面や、社会生活を生きる人間の有様について研究している点です。したがって、この研究科でなされている様々な研究は、同じ源泉から流れ出た、幾筋もの川の流れにたとえられるかもしれません。この同じ源泉、いいかえれば社会学研究科の学問分野に共通する根源的な問いのあり方を象徴しているのが、社会学研究科の英文名称である、Human Relationsではないかと思います。そしてこのような視点を共有することによって、既存の学問領域を越えた、真の学際的研究が可能だと私たちは考えてきました。

昨今何かにつけてグローバルという言葉がメディアを賑わしています。地球規模という意味でこの語を使っているのですが、その意味でのグローブ(globe)にはよく似た言葉としてアース(earth)やワールド(world)があります。ある辞書には、globeという言葉はかつて地球の「丸さ」を強調する語であったが、今ではworldと同義で用いられ、共にearthよりも包括的で、より抽象的な言葉であると書かれています。私にはグローブという語が(ローカルという語よりも)高い価値を有しているということを暗ににじませつつ、アースという、価値観を持たない語の代わりとなって、頻繁に使われているような気がいたします。

しかし、ヒトは生物圏としてのアースに支えられており、それを前提としたワールドワイドな相互の意思疎通を通じてのみ、今後の生存について考えることができます。グローバルという言葉を生み出した世界観が、今後の生存に関わる知や文化をどれほど支えることができるか、それともこういった世界観と屹立する別の世界観を考えだしていかなくてはならないのか、そうしたことも未来の新しい文化の種蒔く人となる皆さんによってきっと切り開かれていくと信じています。社会学研究科は、自らが種蒔く人となる気概を持った若い研究者を待っております。